第5期・多発する労使紛争の相談解決能力養成講座・第3回<報告>
連合大阪 最賃対策部長 竹尾 稔
講師:上原 康夫 弁護士
連合大阪は、2月15日に「労働条件の不利益変更」をテーマに、連合大阪法曹団幹事の上原康夫さん(弁護士)から講演を受けて討論を行った。以下は本講座の概要である。
労働条件とは、労働契約関係における労働者の待遇の一切をいい、具体的には、賃金・労働時間・休憩・休日・休暇などがこれに該当する。労働条件は契約当事者の合意によって決定されるが、合意内容は無制約ではなく、法令の規制(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法)や就業規則、労働協約による規律も受ける。この規範の序列としては「法令(強行法規>労働協約>就業規則)」となっている。
つまり就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効になり、無効となった部分は就業規則で定める基準による(ただし、就業規則で定める基準を上回る労働条件を定める契約は有効である)。そして、就業規則は法令または当該事業所に適用される労働協約に反してはならず、同様に労働協約も法令に反してはならない。
就業規則は、法令または労働協約に反しない範囲で労働条件を定める機能を有している。そのため、使用者は就業規則の新たな作成または変更で、労働条件の切り下げを行うことがある。そこで、労働者がどこまでその不利益な変更に拘束され、変更後の労働条件の適用を受け入れなければならないかがポイントとなる(作成後または変更後の就業規則の条項に拘束されない場合、労働者は作成前または変更前の労働条件で処遇される)。労働者としてすべきことは、1.手続き面(労働者への意見聴取、労基署への届け出、労働者への周知の義務が履行されているか)、2.内容面(法令や労働協約に違反していないか、作成・変更に必要性と合理性があるかなど)、でのチェックである。
就業規則の不利益変更の効力で「合理性」は、1.労働者が被る不利益変更の程度、2.使用者側の変更の必要性の内容・程度、3.変更後の就業規則の内容自体の相当性、4.代替措置その他関連する他の労働条件の改善状況、5.労働組合などとの交渉経緯、6.多数従業員の受容の程度、が判断基準とされる(第四銀行事件:最小判平9・2・28)。
「不利益変更の合理性を肯定」した判例は、「秋北バス事件(一般職種の従業員は50歳定年があり、定年制がなかった主任以上の地位にある従業員への55歳定年制の新設事案)」(最大判昭43・12・25)などがある。
一方「不利益変更の合理性を否定」した判例は、「みちのく銀行事件(経営コストの削減を理由に、役職制度を変更し、賃金を大幅に減額した事案)」(最小判平12・9・7)などがある。
労働協約とは、労働組合と使用者またはその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名または記名押印したものである。
そこで、労働協約締結による労働条件切り下げがある場合は、1.当該組合の組合員は、原則として協約の定めた労働条件の適用を受ける、2.労働協約の内容が極めて不合理な場合、組合内での民主的手続きがとられていない場合などには、協約の効力が及ばないことがある、3.非組合員にも労働協約が定めた労働条件が適用されることがある、ことを認識しておく必要がある。特に2.に関しては、「神姫バス事件」(神戸地裁姫路支部昭63・7・18)などの判例もある。
本テーマは、個々の事案により判例が大きく異なっている。使用者からの労働条件切り下げ提案には即答せず、冷静に検討して回答を。困った場合は遠慮なく、連合大阪なんでも相談センターにご相談を(TEL0120−154−052)。
<参考文献:「労働相談実践マニュアルVer.4(日本労働弁護団)からの引用部分あり>
当日の資料を希望される方は、連合大阪組織・中小・社会運動グループへ
(TEL06−6949−1105)