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第5期・多発する労使紛争の相談解決能力養成講座・第1回<報告>

「仕事主義」賃金こそが原則
成果主義の採否など二の次

連合大阪 中小対策部長 竹尾 稔
講師:森 博行 弁護士

 連合大阪は10月25日「賃金総論」をテーマに標記講座を開き、連合大阪法曹団幹事の森博行さん(弁護士)から講演を受けて討論を行った。以下は本講座の概要である。

賃金決定についての法原則

 賃金原則とは、現にある、または将来あるべき賃金制度の合理性・正当性をチェックする基準となる原理・原則であり、すべからく賃金を受け取る労働者の誰もが共感し納得できるものでなければならない。

 そこには3つの原則が存在をする。第1原則は「賃金のミニマム保障(あるいはリビングウェイジ原則)」、第2原則は「同一価値労働・同一賃金の原則」、第3原則は「賃金の企業横断的規制の必要性を説くもの」である。

 この原則は「国際人権規約A規約」の第7条でも「同一価値の労働についての同一報酬(男女共通賃金原則含)」「生活保障(リビングウェイジ原則)」の意が明記されている。

 日本においても不十分ではあるが「憲法第14条1項(法の下の平等)」「労基法第3条(労働条件の差別的取扱の禁止)」「同4条(男女同一賃金の原則)」「最低賃金法」などが存在する。

 また判例としては「丸子警報器事件(長野地裁上田支部H8.3.15判決)」も存在する。「同一(価値)労働同一賃金の原則は、労働関係を一般的に規律する法規範として存在すると考えることはできないけども、賃金格差が現に存在しその違法性が争われているときはその違法性の判断にあたり、この原則の理念が考慮されないで良いというわけ決してない。けだし、労働基準法3条、4条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対し等しく報いなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。それは言わば、人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原則と考えるべきものである(後略)」という内容である。

職務給とは

 欧米の賃金制度は例外なく「職務給」を当然のこととしている。「職務」とはジョブ、つまり仕事のことであり、「職務給」とは、労働者が遂行すべき仕事の客観的な種類・性質・内容によって賃金の額が決定されるシステムであるということができる。

 英米では、基本給はどのような職務に就くかで自動的に決まる。その職務に就く人の学歴・年齢・能力など属人的要素のいかんにかかわらない。賃金は労働者が従事する職務に対応して支払われるのであって、職務に従事する労働者に対応して支払われるのではないからである。

 しかしながら、職務に対応して賃金に差をつけるためには客観的根拠が必要である。そこで、まず各職務に対する職務分析を行い、これを基礎に職務記述書(職務の種類内容・責任などに関する物的側面を記述)と職務要件書(職務を遂行するのに必要な知識・経験・技能などの人的側面を記述)を作成する。その上で各職務のグレードを評価し、企業外の市場賃金相場を参照し、各職務の賃金額を決定するのである。

日本型成果主義の問題点

 欧米における賃金制度は「職務の客観的価値に基づく市場賃金として(英米)」、「労働の社会的価値に基づく協約賃金・最低賃金として(独仏)」、その金額が決定されるのであり、これは同一賃金原則を体現するものと評価できる。一方成果主義は「特にホワイトカラー労働者について、職務給が許容する上下範囲内で、パフォーマンスに応じた格差付けを行う(英米)」「協約賃金・最低賃金をベースに、パフォーマンスに応じた上乗せを行う(独仏)」とされ、あくまで仕事主義賃金が基本にあり、それを修正ないし調整する副次的手段としてしか存在しない。

 これらに対し日本の成果主義賃金は、年功主義(あるいは年功的能力主義)賃金に代替するものとして導入が試みられており、根本的問題が存在する。「年功主義」とは同一賃金原則に違背する主観的賃金形態でしかなく、これを改めるのであれば、選択肢としては、同一賃金原則に合致する客観的賃金形態としての「仕事主義」以外にありえない。それ自身は決して独立した賃金形態ではなく、単に客観的賃金形態の修正・調整準則でしかない成果主義に飛びついてしまっている賃金原則から見る限り、目標に据えるべきはリビングウェイジ原則に裏打ちされた同一賃金原則でなければならず、それを可能にする賃金制度とは仕事主義賃金以外にはないと観念すべきであり、成果主義の採否などは二の次に位置づける問題である。

(参考文献:大阪労働者弁護団編「成果主義に抗して」)