コラム「徒然なるままに」(2009年5月)
連合大阪 事務局長 脇本ちよみ
久しぶりに映画を見た。アカデミー賞を受賞し話題の「おくりびと」である。
原作の「納棺夫日記」は、以前読んだことがある。どちらかというと地味で淡々と綴られた短編集であるが、「生」や「死」や、親鸞の教え、さらには「不浄」「穢れ」意識に対する問題提起など多くのことが盛り込まれた作品だと思った。
「おくりびと」はそれをもとに作られた映画である。現代風にアレンジはしてあるが、原作同様「生と死」「別れ」「親子・夫婦・家族の愛」そして「職業差別」など、多くの深い内容を扱っている。にもかかわらず非常にコミカルにユーモアあふれる作品に仕上がっていて、笑いながらしかし泣かせ、考えさせ、心温まる…そんな映画に仕上がっていると思った。
私の出身地では、昔、納棺は死者の親族の中のだれかがやっていた。その役割を担った者は、特別な服装とか特別な場所での手洗いとか非常に隔離的で差別的な扱いをされていたように記憶している。“死”は不浄であり、“清め塩”に象徴されるように、死者を扱うことは穢れているという意識が風土として根強かったからだと今にして思う。
映画でも主人公が納棺夫になったことを知った友人からは非難され、妻からも「穢らわしい!まともな仕事についてほしい!」と懇願される。
誰にでも必ず訪れる死。人として最後の時を安らかにそして家族や親しい人の中に最も「いい形で」留められるようにと果たす仕事の「おくりびと」。非常に大切で必ず必要な仕事でありながら、“穢らわしい”と言われ、忌み嫌われる理不尽さを、死者へのおくりびととしての完ぺきなまでの美しい所作を通して哀しく問いかけてくる映画であると思った。
さらに、その死を通して周りの家族たちとの交流や愛情のあり方も含め、人の生き方そのものを静かに問いかけている。
主人公がチェロ奏者だという設定であり、映画全篇を通してチェロの独奏が多く流れ、音楽がとても素敵でよかった。「もう一度見たい」と思わせるいい映画だった。