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コラム「徒然なるままに」(2008年7月)

闇の奥…

連合大阪 事務局長 脇本ちよみ

 悲惨な秋葉原17人殺傷事件から約1カ月近くが過ぎようとしている。

 犠牲となられた被害者の皆様の、言いようのない驚愕・恐怖、さらに「なぜ私が?…」という理不尽さへの怒りは、いかばかりだったろうかと本当に胸が痛む。事件後、事故現場を訪れ、花を手向ける人が後をたたないのも、一瞬にして命を奪われた方々のその思いを少しでも受け止めたいという表れだと思う。私も近ければそうしたい思いでいっぱいである。

 容疑者は、25歳の派遣労働者だった。彼のネットへの書き込みから、優等生からの挫折、社会への絶望感、仕事への不安、そして何より深い孤独がうかがえる。

 人はだれでも、心のバランスを失うほどの孤独や挫折、閉塞感など、形や程度の差こそあれ感じる時があると思う。私自身も、たとえ一時であっても「自殺」や「失踪」、「大声での叫び」などの衝動を抑えられない思いに駆られることも幾度かはある。だからこそ、事件後「なんと身勝手な、甘えるなよ」と思ったことも事実である。しかし、家族や友人や同僚ではなく、ネット上での書き込みでしか心情を書き連ねられないその孤立感と、いつ仕事と生活が途絶えるかもしれないという不安の連鎖が絶望の闇を生み、この凶行にまでひた走らさせてしまったのかもしれないとも思う。

 事件2日後、連合大阪に一通のメールが届いた。容疑者と同じ20代の若者からである。

 “決して彼の行為を肯定するものではないが、自分も含め同じ境遇、同じ思いで働いている20代の人は多い。いつ第2、第3の事件が起きるとも限らないと思う。そうならないためにも、雇用環境の改善に取り組んでほしい”という内容のものだった。

 ちょうどこの事件の翌日から1週間、「日雇い・もっぱら派遣、パート労働の特別相談」を連合大阪が行った。今日的課題であるとの認識からか多くのテレビで取り上げてくれたこともあり、5日間で約200件の相談が寄せられた。毎日、相談電話は鳴りっ放し状態であり、派遣やパートで働く皆さんの本当に理不尽な扱いに対する悩み・不安・怒りが数多く寄せられた。

 人はだれだって、自己肯定感をもち、自尊感情を保って生きていきたいと願っている。そして、成人ならその感情は、自分と社会との接点を実感できる「仕事」をすることで満たされるのではないだろうか。事件の容疑者にそれが「かなわぬ」と思いこませる孤独と絶望の闇のひとつに「仕事」のありようがあったとするなら、やはり、労働組合として今後考えていかなければならないことは大きいと思う。犠牲になられた皆さんのためにもそうする責務がある…と思っている。