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コラム「徒然なるままに」(2008年5月)

「いつか行く道」に不安のないことを…

連合大阪 事務局長 脇本ちよみ

 家の近くに小さなお寺がある。
 その寺の門の横に掲示板があり、毎月いろんな言葉が少し癖の在る文字で書かれてあり、考えさせられることも多い。今月の言葉は「子ども叱るないつか来た道、年寄り笑うないつか行く道」である。「なるほど!」と妙に納得した。そして、この4月から始まった「後期高齢者医療制度」を思う…。「現代姥捨て山」とすら酷評されているこの制度、私も含め若者も“いつか行く道”である。

 今後の日本は、世界に例を見ない少子高齢社会になっていく。この制度はその高齢社会を乗り切る「医療保険制度」の議論の中で生まれたものであることは間違いない。私の記憶に間違いがなければ、2000年前後の医療審議会か何かの中で、高齢社会を乗り切る「医療保険制度」のための議論がまとまらず、今の案と別の案が両論併記された報告がされたと思う。私自身もその当時、医療費が将来こんなに膨れていくなら一定の負担はやむを得ないかと思った気がする。しかし実際に始まってみて、全員のしかも年金から一斉に自動的に天引きされていくとは…と驚いているのが本音である。

 お年寄りでも、現役以上の所得がある人もおられるから、その人たちからはそれなりの負担をいただくこともやむを得ないかと思うが、しかし、月に6万、7万の年金のみ生活者からも天引きするとは予想だにしていなかったと自分の不覚を恥じる思いと、あらためて制度の十分な説明責任が果たされていたのかと(特に当事者に対して)疑問に思う。

 人はいずれみんなが年老いる。そして、老いれば誰でもが長く生きてきた分だけ体も悪くなり、医者の世話になることも増えることは当たり前のことである。

 連合が一昨年暮れに組合員から取ったアンケートでは、今の日本を表す言葉で最も多かったのは「不安」であった。将来に対する不安、先が見えない不安が今の社会に渦巻いている。誤解を恐れずに言えば、私は消費税なりをもっとあげてもいいと思っている。ただしである、ただし、その税の使い道は、老後の医療・年金に必ず、間違いなく還元されることが保障される制度として確立するならである。いつか行く道の老後に「不安」がなければ、人は前向きに明るく生きることができるのではないかと思うし、そのことが社会の活性化にも通じていくのではないかと思うからである。一生懸命働いてきて年老いたとき、それなりの楽しい老後が保障される社会を願うのは、ささやかな、しかし当たり前の権利であると思うけれど。