コラム「徒然なるままに」(2005年12月)
連合大阪 事務局長 脇本ちよみ
もう20年くらい前になるだろうか…。教え子の一人がぶらりと遊びに来た。彼は中学を卒業と同時に「鉄筋工」として働いていた。
「どう?仕事は?」「しんどいしきつい…。むっちゃきつい」
「がんばらんとな…」「頑張ってるで…毎日。でもな、疑問があるねん…」と彼は言った。
「なんやのん?」
「先生は『職業に貴賎(きせん)はない』と言ってたやろ。でもそれは違うで、やっぱり職業に貴賎はあるで…」
「なんでそう思うん?」と聞く私に
「おれら、この暑い夏にむっちゃ熱くなった鉄筋を運んで、高い所でこわごわ仕事して、お日様いっぱい浴びて暑うてかなわん…。時々そんな現場で昼飯も食べなあかん。暑くて胸悪うて、そのうえ弁当までぬくうて食べる気もおきんし、食べへんときもある…。そのうえ、仕事終わっても体はほてって寝付かれへん。クーラーがんがんかけて寝るから、結局かぜひいたりして…。でもな、そんなおれらの給料をクーラーのかかってる涼しい場所で計算している人の方がずーっとおれらより給料高いんやで…。おかしいと思わんか? こんなにしんどいめして働いてる者のほうが給料めっちゃ安いんやで…。やっぱり仕事に貴賎があるんとちゃうかなって思うんや?!」
と彼は、ぼそぼそと話してくれた。そのとき、私はよう返す言葉が見つからず、黙っていた。
その後、時々彼の言葉を思い出す。思い出しつつ「答えを見つけなければ…」と思ってきた。しかし、なかなか彼を納得させられると思う答えは見つからずにきた。
「同一価値労働、同一賃金」−仕事の中味は違っていても、同じ価値の労働には同じ賃金を−というILO100号条約の理念に出会った時、これで…彼への答えが見つけられるかも知れないと思った。
この「同一価値労働、同一賃金」を真正面から掲げて「男女賃金差別」を争った京ガス事件の控訴審の結審が11月16日にあり、来年1月31日に判決が言い渡される。連合大阪はこの裁判の「国際基準に照らした公正な判決を求める団体署名」に一審、二審ともに取り組んできた。多くの組織のご協力を得て600を超える団体署名をいただいた。
「同一価値労働、同一賃金」−このことをきちんと図るものさしが、EU諸国やカナダでは「法律」として整備されている。日本における今も歴然と存在する男女間の賃金格差、さらには、最近特に増加してきている雇用形態間の大きな賃金格差を考える時、このILO100号条約の理念を何とか形にした「ものさし」の整備が急がれると思う。そしてそのことは、ナショナルセンターとしての連合の大きな役割でもあるし、私にとっては20年前に彼から突きつけられた大きな課題への答えにつながるのでは…と思っている。