今回の住民投票の結果だけでは都にならないからです。今回の住民投票の内容は、あくまで大阪市域に5つの特別区を設置することの是非を問うものです。住民投票で賛成多数であっても、大阪府の下に5特別区が置かれることになります。
大阪市では、過去の開発行政の失敗や2000年代の職員厚遇問題の発覚以降、職員の給与削減や支出削減の努力の結果、収支改善が進んでいます。他方、大阪府では、積立金の取り崩しも続いており、将来負担費比率も大阪市より高いまま推移しています。
橋下市長の説明によれば、大阪府と大阪市との二重行政の結果、非効率な行政となっていることを解消するため、大阪市を廃止し、5つの特別区で事務を実施するほうが住民の声が反映しやすいということです。しかし、二重行政とはWTCとATCの高さ競争以外に何があるのか、40万人規模の区長が住民に近いのか、よくわからないことがあります。
最大の違いは、「特別区」では住民が特別区の区長と区議会議員を直接選挙で選ぶという点です。現在の区は「行政区」と呼ばれ、区長は市長が任命する公務員です。区議会もなく、あくまで市の行政事務を実施するための組織です。
二重行政が悪い場合は、府と市が同じ事務を競合して実施しているのに、片方にしか需要がないという場合です。体育館でいえば、もし府と市の双方の体育館の稼働率が高ければ、それはその地域に需要があるということで無駄とは言えません。実際に調べてみると、信用保証協会などわずかなものだけで、特別区設置によって削減効果額はあまり見込めません。ちなみに法律では、事務配分は「府」あるいは「市」が行うことが明示されていて、競合があるところは独自に行っているわずかな部分だけです。
行政の施策が経済発展に影響をもたらすことは一般的に言えませんし、経済成長のための都市制度があるとは言えません。むしろ、特別区の設置によって小さな単位で行政を行うことで費用が余計にかかることになりますので、どこかから財源を確保しなければならなくなる可能性が大きいです。
経済発展と無関係なことと同様、特別区に移行したからといって治安がよくなるということはありません。犯罪は経済状況に左右されます。また、それぞれの特別区で教育や福祉の専門家を雇用する必要があるのですが、それが専門家不足あるいは財源不足でできない場合は、教育や福祉にしわ寄せがいくことになると予想されます。
大規模自然災害の場合、発災後はトップダウンに指揮命令系統を整えておく必要があると言われています。特別区間の協定がどのようなものかになるかに左右されると思います。
市町村合併のように、大きな単位になれば一般的には事務執行の費用が削減されます。しかし、逆に小さな単位になると、ひとつひとつの事務執行の費用は増加します。現状の行政サービスの水準を維持するだけでも、現在よりは費用が増加します。特別区になって、何に支出するのか自由に決めてよくなったとしても、最初に決定すべきことは増税かサービス水準削減かのいずれかかもしれません。
東京都の場合、中央区や千代田区、港区などのように大企業の本社も多く、富裕層もたくさん住んでいる地域が、他の貧しい地域を補填するだけの財源を生み出しています。しかし、大阪市域内にはそのような地域はない以上、5つに分割すると各区での行政費用だけが増加する恐れがあります。
市税収入で大きな割合を占めていた固定資産税などは府税に移譲され、大阪府の中でどのように配分されるのか決定されることになります。市域外に流出するか、あるいは市域内で配分されるのかはさておき、特別区の手から離れた場所で決められる部分が大きくなることは間違いありません。
これまで強引に法定協議会の開催回数や内容、そして最後は構成員の入れ替えまで一方的に決められてきました。運営の仕方が違法ではないからといって、複雑な内容の行政制度の改編を、十分な審議をしなかったことは残念なことだと思います。
戻せません。戻すための根拠法がないのです。もう一度、国会で特別区から政令市にするための法律を整備する必要があります。まずは、特別区が合併して単一の市となり、それがさらに政令市に移行するという手続きになると思います。しかし、現実には国会でそのような手続きをとることは政治的に難しく、また、政令市へ移行したいという東京特別区も存在している中で、大混乱を招きかねない特別区から政令市への移行には、国会議員たちも及び腰になるかもしれません。
いまさら住民投票反対を叫んでも意味がないことかもしれませんが、高度に専門的な法律用語や財政用語が並ぶ協定書の是非を、住民投票で決めるのは問題です。「どのような行政サービスを実施するのか(What)」ということではなく、「どのように行政サービスを実施するのか(How)」ということを選択するのは、何度説明を聞いてもわかりにくいことです。民意を体現した議員は、こういうときのために存在しているわけです。
大阪では1例しかありませんでしたが、市町村合併のときでも、周知徹底のための期間はもう少しとっています。今回は、協定書が議会で可決されてからでも1年も経っていません。いくら多忙な市長が説明会を開催しても、短期間では市民への周知徹底は難しいでしょう。