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コラム「あんな相談こんな事例」(5) 2006年3月

「雇用のない経営」の問題点
「使用者概念」の扉をたたき、「救済」の窓を開く

連合大阪なんでも相談センター 相談員 要 宏輝

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■経営者よ、正しく強かれ

 「経営者よ、正しく強かれ」。 これは、かの日経連の設立時(1948年)に掲げられたスローガンである。当時は労働攻勢が激しく、これに対抗する「檄(げき)」として生まれたこのスローガンが、半世紀を経てその趣を変えて日本経団連の「春闘方針」といわれる「経営労働政策委員会報告書(2006年度版)」のサブ・タイトルとして復活した。報告書の中で、「正しさとは、フェアに競争し、企業の社会的責任を果たし、経済の発展と人類の幸福に貢献する『志』を持つことを意味する」としている。

 「失われた10年」といわれるデフレ不況のなかで、経営者は「困った、困った」と言いながらも、首切り・賃下げをはじめとするリストラ、法違反など、さまざまなことを行ってきた。日本経団連が、「経営者よ、正しく強かれ」と叫ばざるをえないのも、むべなるかな、である。

使用者の「非使用者化」と労働者の「非労働者化」の問題点:アサヒ急配事件を例として

 今、相談で増加してきているのは、使用者の「非使用者化」と労働者の「非労働者化」の問題である。つまり、「雇用のない経営」や「解雇のない雇用」の問題である。ちなみに、「解雇のない雇用」とは、有期契約労働者を使って「雇い止め」し解雇責任を逃れること。「雇用のない経営」とは、派遣や下請け労働者を使う派遣利用の経営であるが、現在ではその使い勝手のよさから派遣利用よりも請負を利用した経営にシフトしている。

 使用者責任を逃れるための「非使用者化」の方法には、1.関係切断型(偽装閉鎖による全員解雇後の企業再開・再雇用)、2.法人格乱用による別会社利用型、3.他企業から派遣された労働者を使う派遣利用型、そして、使用者の「非使用者化」と労働者の「非労働者化」の二つの要件を偽装的に満たすものとして、4.委託契約・請負契約型がある。大阪府労働委員会では、これまで1〜3のケースでは使用者性が、4のケースでは使用者性と労働者性が争点となって論争となっている。

トラックを運転するイラスト その典型的な事案のアサヒ急配事件を例示する。通常の運送業の会社では、使用者と労働者従業員が共同して事業を展開している。被申立人会社では、経営者はいるが、そこに働いているのは、委託契約と下請け契約に巧みに偽装された労働者。その労働者が組合を結成したところ、組合員が全員解雇されたので、大阪地労委(当時)に救済申し立てを行った。非申立人は、「運送業務委託契約」をタテに、「労働者でないので不当労働行為ではない」として、申し立ての却下を求めた。

 委託契約や下請け契約の存在の事実認定は争う余地がない。問題の決め手は労働実態にある。並行して争われていた別件の「地位保全仮処分事件」で、大阪地裁堺支部は、会社と委託労働者の間には、業務指示、業務日報の義務付け、制服の支給、服務規程の存在すること、そして、委託業者とは言い難いほどの低賃金であることを理由に、「労働契約関係にあたる」と認定し、「組合結成後の解雇は不当労働行為にあたり無効」との判断を下した(平成16年5月14日、大阪地裁堺支部)。

 当然であるが、地裁と同様の判断にたった府労委命令が出された。ほぼ全部救済の内容だった(平成17年12月7日、大阪府労委)。

 このような事案が業界を超えて増えている。際限のない労働者の「非正規化」「非労働者化」を規制強化しなければ、労働組合の組織率が下がり、集団的労使関係の領域が狭まる。労働組合としても、これらの改善に取り組むことは重要な喫緊の課題である。