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コラム「あんな相談こんな事例」(1) 2005年9月

増え続ける派遣・請負労働者
問われる組織労働者の役割

連合大阪なんでも相談センター 相談員 衛藤 社司

☆ ☆ ☆

 9月27日、3人の若者が飛び込みの相談にやってきた。派遣先の大手電機の工場で仕事がなくなったので突然解雇を通告されたという。労働基準監督署など何カ所か相談に行ったが納得のいくアドバイスをもらえなかったので「連合」に頼ってきたのだ。

 話を聞くと派遣ではなく、工場内の業務請負会社の契約社員である。1週間前に9月25日付で契約解除を通告されたのだが、9月1日に第2回目の契約更新をしたばかりで10月31日までの契約期間が残されていた。

 業界大手のA電機の大阪工場は携帯電話の製造ラインの約4割を外部の企業に請負わせてコストダウンを図っている。新機種の生産計画が大幅に遅れたため10月度の生産数量を確保できない。そのため請負のラインで生産調整しようとするものである。

★「人材ビジネス」は急成長

 ラインを請負っているB社は人材派遣・請負などで急成長しているCグループの中核企業で、大手電機メーカー国内工場の請負を専門に行っている。1万人を超える契約社員を抱えており、年商は500億円を超えている。

 今回の場合は大阪工場の2つの製造ラインを請負うため6月初旬に募集広告を出し、その週のうちに面接・選考が行われた。福岡君(仮名)たちは30代後半の働き盛り、すぐに採用が決まった。勤務開始は6月下旬ということだったが、2度の延期通知があり結局7月15日からの勤務となった。

★過酷な労働条件で契約

 「労働契約書兼雇入れ通知書」には、本人とB社の社員で工場の事業所責任者宮崎氏(仮名)と大阪営業所所長山口氏(仮名)の三者による押印がある。

 契約内容は、(1) 契約期間は2カ月更新を基本とし、初回が7月15日から8月31日まで、(2) 時給は950円、(3) 勤務時間は22:30から翌5:30まで夜勤専属、(4) 給与は月末締めの翌月15日支払いであった。口頭ではあったが採用条件の前提が長期に勤務可能な者となっていた。また法令に基づく深夜割増、残業手当を支給するので月額は22万円程度になると言われたが、実際は残業はおろか、午前4:00切り上げ退勤などもあり、月額18万円前後だった。

 さて、彼らの代表格の福岡君が交渉した結果、契約解除(解雇)の条件は、(1) 9月26日から1カ月の勤務予定日数に対して会社規定による待機費(日額4000円程度で総額10万円前後)を支払う、(2) 日勤専属の短時間勤務(月額8万円以上)に契約変更をする、のいずれかを選択せよとのことだった。宮崎氏が対象者を個別に説得に回ったが混乱が起きてしまった。

★10人が組合結成して交渉

 相談にきた3人に仲間を集めるように指示し、勤務シフトが同じ者に連絡して、10月1日、近隣の公民館に10数人を集めて組合結成と要求内容の説明会を開いた。10人がその場で加入し、福岡君を分会長とする「連合大阪地方ユニオン大阪地域合同労働組合B分会」がスタートした。

 10月4日、B本社を訪れ組合結成通知書、要求書、団体交渉申入書を提出した。大阪市中心部に最近できた高層オフィスビルの広大な間仕切りのないフロアに、デスクが整然と並んで若い社員ばかりが黙々と働いていた。これが巨大なCグループの各社が同居する西日本の拠点である。

 要求内容は、?労働契約の解除および変更の白紙撤回、?契約期間の賃金全額支給、?11月以降の契約更新の保証、?契約更新できない時は賃金2カ月相当分の支払いなどだ。

★予告手当を払って合法を主張

 B社は時間稼ぎをするとともに慌てて「解雇予告手当を振り込む」という策を打ってきた。団体交渉前に文書回答したいとの連絡があり、10月18日付内容証明郵便が送られてきた。要求内容に対してはすべてに「拒否」回答であった。

 10月27日第1回団体交渉を行ったが、会社は業務管理部長秋田氏(仮名)と山口氏、宮崎氏がでてきた。決定権のないものでは話にならないが社長を出す気はさらさらない。まったく誠意のない「ゼロ」回答だと詰め寄ると「新たに雇用確保で対応したい」ということで、組合員の居住地から離れた他府県の大手メーカーの工場で受け入れるという提案でお茶を濁してきた。

 彼らはそれぞれの事情があっての生活手段として夜勤専属勤務をしていたわけで、他府県に単身赴任や家族帯同で勤務できることなどあり得ない。12月22日第2回団体交渉にて早期解決のための和解案、解決金方式を提起するも一切の歩みよりがなく交渉は決裂した。

 B社は違法性はないと主張するが、そう簡単に首を切られてはたまらない。いかに合法的であっても社会正義から許してはならない。組合員10人は生活を守るためには遊んではいられない、既にそれぞれの職場を求め頑張っている。組合分会は結成したが団結して闘う手立てもないので、次の戦術として「契約不履行」で小額債権訴訟を行うことで対抗することとした。

★「請負」に依存する国内工場

 法律の規制のまったくない野放し状態で業務請負(アウトソーシング)業界は膨張するばかりだ。ある調査では電機大手の工場で過去3年間で正社員が減った工場は78%、請負社員が増えた工場が51%となっている。また時間当たりコストは正社員4000円に対して請負社員は1300円となっている。低賃金の不安定労働者がいかに多いか計り知れない。

 昨年3月に製造業への「人材派遣」も解禁になった。自動車産業では派遣社員が正社員に代わる主要戦力になりつつある。労働に関する規制緩和が拡大し非正規労働者の増大に対して、われわれ組織労働者がいかに対応していくのか、課題は大きくなるばかりだ。